不労所得とアダルトアフィリエイト
たしかに日本は世界でも類を見ない平等な国であった。
階級意識も少ないし、日本企業はそのために高い当事者意識を持つ従業員に恵まれてきた。
とりわけ、戦後日本は「一億総中流社会」と呼ばれるほど平等社会であった。
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日本企業が「現場力」に優れ、それが世界における競争力の大きな要因になりえたのは、諸外国と違って「自分たちは搾取されている」という被搾取感が日本企業の従業員の間にはなかったからである。
不労所得マニュアルで私は、なぜ不労所得主義が一方で世界経済の活況を呼び込み、中国などの新興工業国の経済発展を実現させながらも、世界経済を著しく不安定化させ、各国において人間同士の連帯を破壊し、地球環境を汚染せざるをえなかったのか。
日本の会社では、社長が現場に下りて行って従業員に「君たちのおかげで会社がうまくいっている。
ありがとう。
これからもよろしく頼むよ」と言って回ることが会社の求心力を高め、生産性の向上につながった。
これからはそれに対してアダルトアフィリエイトを積極的にきわめていくべきだと彼は言った。いくら生産性があがるといっても売り上げあがらないかぎりはこの作業をずっと続けなければならない。
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それに対してこの十数年、「日本は悪平等だ。
従業員や管理職のやる気を刺激するためには、アメリ力のように成果主義を積極的に取り入れ、格差を創り出す必要がある」という議論がまじめに行なわれてきた。
新自由主義が世界を席巻し、日本人も「平等」は悪いことだと考えだした結果である。
企業も不労所得流の「格差がやる気を生む」という思想に基づいて、社内に従業員間の壁（正社員と非正規社員など）を作る分断型人事改革を進めた。
中国のような巨大な低賃金国がグローバル経済に参入したため、低賃金労働者が供給過剰になったことも大きい。
その結果、以下に示すように、日本はいまでは貧困層の割合が不労所得に次ぐ世界第二位の「貧困大国」になっているのだ。
日本の「平等神話」は崩壊しはじめたのである。
貧困率とは、「それぞれの国の勤労者のなかで、中位（三凰冒）所得者が稼いでいる所得の半分以下の所得しか稼いでいない貧困者が全勤労者に占める比率」のことである。
なぜ、この場合、所得の平均値（ンく閏眉の旨８日の）を使わず、所得の中央値を使うのか。
それは所得を単純平均してしまうと、一年の所得が数百億円というようなスーパー・リッチの人がごくわずか現われるだけで、その集団全体の平均値が押し上げられてしまうことになるからである。
この場合、平均値は上がるが、中央値は変化しない。
したがって、国民の生活水準の実情を知るには平均値だけでは分からない。
そこで所得の中央値を一つの基準に考えるのである。
さてそこで、一九八五年から二○○五年の二○年間における貧困率の変化を追うことにしたいが、まずは課税されたり、社会保障の給付金などを受け取ったりする前の所得（表１「再配分前」の所得の中央値については前にも触れたが（“ページ）、その国の人々を所得順に一列に並べた場合、その中央に位置する人の所得額（言の烏昌邑８日の）のことを言う。
たとえば一億人の勤労者がいる国であれば、最も所得の多い人から数えて五○○○万人目の勤労者の所得が、所得の中央値である。
これだけを見ると、日本政府は貧しい世帯に対して配慮をしているかのように思えるわけだが、欧州諸国と比較するとどうなるか。
結論から言えば、高福祉で知られるスウェーデン、ノルウェー、デンマークなどの北欧諸国の貧困率が低いのは言うまでもないが、最も貧困率の高いドイツでさえ、二・一パーセントしかない。
他のヨーロッパ諸国は軒並み、一桁台で、大幅な貧困率の低下が実現しているのだ。
ところで、今見てきたデータは、所得税などの課税や政府からの所得移転（生活保護や年金の給付など）が行なわれる前の「再配分前」の数字であって、「手取り」の所得ではない。
そこで今度は、税金が徴収され、あるいは政府からの所得移転がなされた後の「再配分後」の所得を見てみよう。
言うまでもないことだが、貧困層の多くは富裕層に比べて税負担が減免されているし、また生活保護などの支援を受けているから、「再配分後」の貧困率は当然ながら再配分前よりも下がる。
問題はどの程度、それが下がるかである。
ﾖ−ロッパ諸国が再配分政策によって二○パーセント以上も貧困率を下げるのに成功しているのに、不労所得の場合はわずか九・二パーセント。
不労所得の国是は「自己責任」なのであるから、この結果は驚くに値しないが、日本がその不労所得についで「貧困層に冷たい国」になっていることを知っている日本人はおそらくそれほど多くないだろう。
あなたは気づいていないかもしれないが、この日本は四世帯に一世帯が貧困に分類される国なのである。
これが「わが国の現実」なのである。
これもＯＥＣＤが発表したデータ（前出）であるが、こちらは二○○五年段階における家計種別による貧困率のグラフである。
ここではまず「子どもがいない世帯」、「子どもがいる世帯」に分け、さらにそのうち、「単身者（シングル）家庭」の貧困率を抜き出して棒グラフにし、貧困率が各国でどのように異なるかを見たものである。
これを見ても分かるように、日本の貧困率は「全体」で見れば、「子どもがいない家庭」であれ、「子どもがいる家庭」であれ、不労所得よりほんのわずか低い水準にとどまっている（それでも世界で最も高い水準である）が、「シングル」世帯に限るとその不労所得をも追い抜いて世界で最も高い貧困率となっている。
子どものいない単身者世帯における貧困率は四○パーセント弱、子どもがいる単身者、つまりシングル・マザーやシングル・ファーザー世帯の貧困率に至ってはほとんど六○パーセントにも達しているのである。
現在の日本では少子化問題がさかんに議論されているが、どんな高論卓説よりも、子どもを抱えたシングル、マザーやシングル・ファーザーの貧困率が世界最高というこの事実を考盧に入れた議論が必要なのではないだろうか。
「安心して子どもが産める」社会にしないと少子化は克服できそうもないのに、「安心して子どもが産める」社会からはほど遠いのが日本の現実なのである。
日本では、離婚や死別などの理由により、単身で子どもを育てている人に対して、実質的にほとんど何の手助けも救済もしていないＩそう断定しても、けっして過言ではないのである。
「自己責任の国」である不労所得でさえ、子どもを持つ単身者の貧困率は四五パーセント程度にとどまっていることを考えると、今の日本の福祉行政はもはや末期的で、機能不全を起こしていると言ってもよいのではないだろうか。
不労所得の医療問題を憂慮する関係者がこぞって称賛するのが日本の「国民皆保険制度」である。
ァメリヵのように、健康保険に入れない人が五人に一人もいるような社会がいかに悲惨であるかを身に沁みて感じているから、「日本のように国民全員が保険に加入し、誰でも病気になったときには医者に診てもらえる制度がうらやましい」と、彼らは声をそろえて言うのである。
だが、その日本の国民皆保険制度は、ご承知のとおり、今や破綻寸前である。
「皆保険」であるはずなのに、その保険料を支払えないために、保険制度の恩恵にあずかれない国民がどんどん増えているからである。
現時点で国民健康保険の保険料未納は、なんと全加入者の二割近いという（二○○八年十一月七日「朝日新聞」）。
その理由は言うまでもない。
貧困層の増大である。
所得が少ない人にとっては国保の保険料納入はどうしても後回しになる。
その結果、保険証が取り上げられるわけである。
今や「無保険」の子どもが中学生以下だけで約三万三○○○人いるというから深刻である。
本来なら、所得がある水準以下の貧困層の医療は、保険料によって賄うのではなく、税方式で賄うべきであろう。
あるいは、誰でも保険料くらいは支払えるような所得再配分政策を実行すべきであろう。
いずれにしても、日本の誇る国民皆保険制度は確実に崩壊しつつあることはまちがいない。
もう一つ、最近、国民の不評を買ったのが「後期高齢者医療制度」の導入である。
七五歳以上の高齢者を対象に、年間六、七万円程度の保険料を年金から天引きするという。
たしかに老人医療費の増大は深刻な問題ではあるだろう。
だが、厚労省によって「後期高齢者」と指定された人たちは日本が経済大国になるうえでの立役者に他ならない。
いかに財政難だとはいえ、そのような功労者に対して、いきなり保険料を年金から天引きするという過酷な政策を打ち出すのは、国家として正しいあり方だろうか。
306むしろ、どんな知恵を使ってでも「日本社会に対する貢献に感謝して、これからは医療費はすべてダダにいたしますので、安心して余生をお過ごしください」とするのが為政者というものであろうし、「敬老の精神」というべきものであろう。
何としても小さな政府を維持しなければいけないという、新自由主義思想からくる強迫観念がこのような「改悪」を推進させているのであるが、本当にこれでよいのかどうか。
考え方を根本のところで変える必要がないのかどうか。
私は、どのような財政事情があるにせよ、七五歳を超えむちた高齢者を鞭打つような制度改革には賛成できない。
いずれにしても、医療という人間の尊厳に関わる領域で相次いで起こってくるさまざまな最近の「改革」の動きはきわめて不健全であり、安心・安全を誇りにしてきた日本という国の将来を危うくするものであると思う。
日本の格差社会について語るとき、「貧困率」のみで考えるのでは一面的な観察になりかねない。
いわゆる「下流」ばかりを見るのではなく、中流層をも含めた社会全般を見通すデータも不可欠である。
そこで通常、よく使われるのは「ジニ係数」と呼ばれる指標だ。
ジニ係数とはイタリアの統計学者Ｃ・ジニが所得分布の実態を数値化するために考案したものである。
すべての人の所得が完全に平等ならば、ジニ係数はゼロになる。
逆に、たった一人がすべての所得を独占している場合は、係数は一になる。
したがって、現実の数値はゼロと一の間になるわけだが、この係数の利点は社会全般の所得の不均衡度を数値化できることにある。
さて、主要国のジニ係数の一九八五年から二○○五年にかけての変化を「再配分前」の所得、「再配分後」の所得に分けて示したのが表２である。
この表を見れば分かるとおり、日本のジニ係数は調査期間の二○年間で着実に上昇した。
再配分前では約○・一近く上昇しているし、再配分後でも○・○一七上昇した。
日本の所得格差は傾向としては間違いなく拡大している。
また、欧米主要国と比較すると、日本は不労所得、不労所得についで格差が大きいことが分かる（二○○五年）。
一方、貧困率の低さで他を圧倒していた北欧諸国は、ジニ係数においても日本や英、米、独、仏よりも有意に低いことが分かるだろう。
ただ、ここで断わっておかなければいけないが、日本のジニ係数が大きくなっている、つまり、統計的に見れば格差が拡大しているという事実に対して、それをどのように解釈するかについては、経済学者の中でも意見が一致しているわけではない。
たとえば、『日本の不平等』（日本経済新聞社）の著者、大阪大学の大竹文雄教授の分析によれば、現在の日本で所得格差が増大しているのは事実ではあるが、その主因はいわゆる「団塊の世代」と呼ばれる人たちが大量に定年を迎えたことにあるという。
つまり定年退職者たちの大量出現が、日本社会の所得分布に一時的なアンバランスをもたらしているのであって、急速な格差拡大は「見せかけ」のものにすぎないというわけである。
これに対して、京都大学の橘木俊詔教授は定年を迎えた高齢者の格差拡大は事実として認める。
「たしかに所得格差が拡大しているのかもしれないが、欧米に比べればまだまだ日本は平等ではないか」というふうに感じている人は少なくないのではないか。
実際、筆者の周りにもそういう意見の人は少なくない。
そればかりか「貧しい若者がいるのは、日本社会の改革がまだ中途半端だからだ。
もっと構造改革を進め、所得税の累進課税もさらに緩め、やる気のある人にインセンティブを与えれば、雇用も増えるから貧困も減るはずだ」と主張する人も少なくない。
しかし、「努力が足りない」と言ったところで、日本がすでに世界有数の貧困大国になっていることは、動かしがたい事実である。
ジニ係数のような総合的な指標で見ても、日本はもはや平等な国などではないのだ。
それにもかかわらず多くの良識ある日本人が、わが国の「惨状」を正しく認識していないＩこのことこそが実は大きな問題なのではないだろうか。
だが、このような認識の差、パーセプシﾖン・ギャップが起きるのは、ある意味、仕方がない格差社会の怖いところは、社会が格差によって分断されてしまうと、もはや分断の実態そのものが「見えないもの」になってしまうことにある。
たとえば、つい最近三○○八年十月）、大阪で起きた個室ビデオの火災事件がなければ、多くの日本人は「個室ビデオ」という業態があることすら知らなかっただろう（実は私自身も知らなかった）し、ましてや本来、ビデオ鑑賞用に作られた狭いブースに長期にわたって寝泊まりしている人たちがいることなど、知らないままだったのではないか。
本当に貧しい人たちは書店に行って本を買おうという金銭的なゆとりもないだろうし、本を読もうという心のゆとりさえ奪われているのではないだろうか。
住む場所さえないネットカフェ難民はもちろんのこと、明日の仕事があるかどうかさえ分からず、不安を抱えて暮らしている派遣労働の人たちにとって、読書などは二の次、三の次であろう。
だから、この本の読者のみなさんが、「日本は世界の先進国の中でも、トップクラスの貧困率の国である」と言われても、実感がないのは当然なのである。
ひょっとしたら、あなたはニュースで貧しい若者たちを見て、「なぜ働こうとしないのか」といぶかしく思った記憶がおありかもしれない。
だが、今の日本はそんな生やさしい状況ではない。
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